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戦う女と休日

 

「ん……もう朝か……」

 ベティーの朝は早い。
 銀の中で一番最初に起き、ナツと共に食事の準備を始める。女が食事を作るものという決まりはないが、男共に任せては朝食が夕食並みに重くなる事を危惧したベティーなりのこだわりなのだ。
 なにせ作るのは肉大好きなブルーツ。真面目なブレイザーでも作る量が異常で、いつも残ってしまう。
 そんな事があるため、ポチズリー商店の朝食はベティーとナツで作るのだ。勿論、他の子供たちも手伝いに来るが、ベティーのナイフ使いは非常に繊細で、他の料理店の店主顔負けだという話だ。

「ベティーお姉ちゃん、あれやってあれ!」

 まだ小さな男の子がベティーにねだる。ふふんと鼻を鳴らしたベティーは手に持っていた芋を頭上に放り投げ、背面に回る一瞬でナイフを振った。後ろ手にキャッチした芋は、皮が剥かれ、見事に八等分されていた。
 顔を紅潮させて目を見張った男の子は、「おぉー!」と感嘆の息を漏らした。皮はいつの間にか左手で持っており、脇に置いた。後で揚げて子供たちのおやつにするようだ。
 男の子はきゃっきゃと喜びながら、その後もベティーに色々な技をねだった。

    *          *

「ふぅ……」

 朝食やその片付けも終わり、おやつの仕込みも終わり、夕食までは仕事がない。
 普通の女であればそうだろうが、ベティーの本職は冒険者。ここからがベティーの一日の始まりである。
 冒険者ギルドへ向かい、ランクBの依頼を物色する。ランクAであるベティーだが、一人で行動する時は、安全マージンをしっかりととり、ランクCやランクBの討伐や依頼を探すのだ。
 これはどの冒険者にも共通して言える事であるが、常に上を目指す者はこの限りではない。
 しかしベティーは既にポチズリー商店の柱と言えるべき存在だ。自分の失敗で被害を被る人間の数を天秤に掛けた時、どうしても危険は冒せない。
 勿論、そんなベティーの鬱憤が溜まった時は、銀の三人やリナやオルネルたちと一緒に、高難度討伐をこなしたりもするのだ。
 掲示板に貼られている依頼書に目を通していると、ベティーの目は特殊依頼の項目で止まった。

「…………これは?」

 依頼内容は――――――…………。

      *          *

 数日後、ブルーツとブレイザーはモンスター討伐から帰り、夜のベイラネーアを歩いていた。
 まだ夜は始まったばかりの頃合いで、二人はポチズリー商店の子供たちへのお土産を物色していた。

「何がいいかねぇ……? やっぱり安心安定の甘いモンでも……ってブレイザー? そんなショーウィンドゥ覗いて何やってんだよ?」

 立ち止まるブレイザーに、ブルーツが声を掛け、その視線の先を追った。
 するとそこには二枚の絵が飾られていた。

「何々? 『戦う女』と『休日』……? って、こっちの方……ベ、ベティーじゃねぇかっ!?」

 ブルーツが驚くのも無理はない。なんと、戦う女と書かれた片方の絵に、ベティーが剣を構えた姿が描かれていたのだ。

「やはりこれはベティーか……」

 ブレイザーがそう零す。

「へー、あいつがこんな絵のモデルをねぇ? はははは、帰ったらからかってやるか」

「やめておけ、また瀕死の攻撃をもらう事になるぞ」

 ブレイザーの制止もむなしく、ブルーツは帰った後の楽しみを顔にニタニタと浮かべながら、再び歩を進めた。

「しっかし、あのもう一つの方の絵の美人は誰だったんだ? 『休日』ってタイトルだったが、白いドレスなんか着て優しく清楚な感じが出てて良かったよな? なぁブレイザー?」

「え? ……あ、あぁ、そうだな」

「あんなイイ女、ベイラネーアで見かけた事ないけどなぁ……。ま、広い街だししゃあねぇか! レガリアの方から来た女かもしれないしな。おい、さっさと土産買っちまおうぜ!」

 呑気に笑うブルーツにブレイザーが苦笑で返す。
(ブルーツのヤツ、気付いていないのか。『休日』のモデルもベティーだという事に。いや、これは言わないでおいた方がいいのかもしれないな……)
 先行して甘菓子を選定するブルーツの背に、くすりと笑うブレイザーだった。