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『人狼』『のうきん』誕生秘話−−超人気作はこうして生まれた!
——お2人はどのようなきっかけで『のうきん』と『人狼』の物語を思いついたのでしょうか?
FUNA
実は『のうきん』って4〜5日で考えた作品なんです。当時、私は「小説家になろう」(以後:「なろう」)で、『ポーション頼みで生き延びます!』と『老後に備えて異世界で8万枚の金貨を貯めます』という2作品を同時に連載してたんですが、それが完結しそうなときに「暇になっちゃうなあ。これからどうしよう……」と思ってしまいまして。それらが終わる5日前に「次回作を書こう!」と思い立って考えたのが『のうきん』なんです(笑)。前に書いた作品が「異世界に行けるだけの女の子」と「ポーション作れるだけの女の子」だったので、今回は「ちょっと強い子」にしました(笑)。
漂月
僕は自分に書けそうなタイプのお話を探すために「なろう」で何作品か読んでいて、「悪役令嬢もの」の『謙虚、堅実をモットーに生きております!』を見つけたのがきっかけですね。「こういった方向性の作品が好まれるなら、まずは書いてみよう」と自分なりに「悪役令嬢」を追及したのですが、僕は男なので女性を上手く描ききることができませんでした(笑)。それで主人公を悪役の男性に変え、悪役の理由付けとして「彼が怪物で魔王の軍勢に加わっている」といったイメージを膨らませていったんです。一般的に「悪役令嬢」は権力をもった人物として描かれているので、男性の場合も「魔王軍の中堅幹部」にしました。
——「悪役令嬢」ということであれば主人公を魔王にするという考えもあったと思うのですが、あえてヴァイトを副官にした理由はなぜでしょうか?
漂月
僕がトップの重圧に耐えられないからです(笑)。今のご時世、一番偉い立場だと様々な理由で難儀することが多いと感じたので「そこそこ偉く、そこそこ責任があり、そこそこやりがいもある」という「そこそこ感」と意識しました。ただ『人狼』は「出世物語」として描くことにしましたので、現状維持を望む本人の考えとは裏腹にどんどん出世していくストーリーになりました。
FUNA
確かに現実でもトップというのは苦労が絶えないですよね。私も仕事をしていた時はいつも次席を狙っていました(笑)。
「少女主人公は売れない」というジンクスを覆す!
——FUNA先生が書かれる作品は主人公が少女というイメージがありますね。
FUNA
だって、おっさんが主人公のお話を書いても面白くないですから(笑)。「おっさんと少女、どちらを書きたいか」ということでしたら、もちろん女の子を書いていた方が楽しいですよ! でも以前、「なろう」で執筆されているある作家さんとお会いした際に「『なろう』では女性主人公が売れない」というジンクスがあると聞きました。確かに「なろう」の年間ランキングでも、30位以内の女性主人公は2位の『のうきん』だけなんです。それに全体的に見ても女性主人公はとても少なかった。
——では、『のうきん』は「なろう」のトレンドをあまり意識せずに執筆されたのですか?
FUNA
全く意識しませんでしたね。お会いしたことのある「なろう」の作家さんはリサーチや分析をして他作品も参考にされてるらしいですが、私は書きたいものを書くタイプなので流行を全然追っていなかったんです。ただ、「女性主人公は売れない」はずだったのに『のうきん』が売れていただいたおかげか、他の作家さんから「次は女性主人公の作品を用意してます」と言われることが多くなってちょっと焦っています(一同笑)。
漂月
でも、他の方がFUNA先生の真似をされてもそうそう上手くいかない気がしますね。狙ってできることじゃないので。僕も女性主人公のお話を書いてみたいと思うことはありましたが、『人狼』の女性キャラ視点をずっと主人公として描いていくと考えるとたぶんできないですよ。例えば、アイリアは男性読者を意識して「男性読者が好感を抱けるような人物」として作り上げています。できれば女性の読者の方にも好感をもっていただければうれしいですが、基本は男性目線のキャラクターかなという気がします。
FUNA
「なろう」は男性読者が多いので「読者が男性主人公に自分を投影している」という考えも当然あるでしょうけど、私はそれだけじゃないと思うんです。だって、女性ばかりで「キャッキャウフフ」してるのってやっぱり見てて楽しいでしょう(笑)。
漂月
楽しいですね!(笑)
FUNA
だから、女性主人公でも男性読者は読むと思いますし、少女漫画を読む男性もいますから主人公の性別はあまり関係ないのではないでしょうか。それより大事なのはターゲットかもしれません。例えば、トレンドの小説が100人をターゲット読者としていて、そのうち1人に買ってもらうとするのならば、私はターゲットを10人に絞って、そのうち2人に買っていただけるようなお話作りを心がけています。その方が、数ある似た内容の本の中から見つけてもらうよりよっぽど手にとっていただける確率が高いと思うんですよ。
漂月
それを実践できるのがFUNA先生のすごいところですよね(笑)。大抵の作家は10人中2人に買っていただこうとしても、1人かあるいは100人中1人になってしまうのが常だと思うので。
編集I
『のうきん』に登場する「赤き誓いの4人」や「ワンダースリー」と「アデル」のやり取りも、読者の皆さんに楽しんでいただきとても反響がありました。アニメでは『けいおん!』や『らき☆すた』のように女の子だけで楽しく過ごす作品が多いですが、なぜこれまでの小説にはなかったのでしょうね。
FUNA
確かに小説の場合は『けいおん!』のようなグループで描いた小説が少ないですよね。『のうきん』は「女の子4人がひとつで主人公」という感覚で書いているからかもしれません。『のうきん』に登場するハンターパーティは、論理的にいえば5〜6人が最適だと思うんです。私が書いている4人というのは実際問題として前衛が足りない。でも、ストーリーを描く上で掛け合いをさせることを考えると5人は多すぎたんです。丁々発止の楽しい掛け合いするのに適したのが4人だったので、あえて減らしています。
——『のうきん』と対極的に『人狼』はとても登場人物が多いです。漂月先生が多くの人物を描く際に意識されたことはありますか?
漂月
人狼隊は全部で56人いますが、名前をつけているのは数人です。いろんな名前が出てきてしまうと分かりづらくなるし、かといって誰も名前がないとただ手下を連れている感じになってしまいますから。そのため、ヴァイトと暮らす共同体=わかりやすく顔が見える存在として幼馴染や近所のおじさんを「住民代表」として登場させています。他にも主要な立場の人たちは名前付きで登場しますが、大勢の人がいて当たり前の1つの国のお話だからこそ、どこまで名前をつけるかはすごく苦労しました(笑)。
——たくさんのキャラクターが登場する中、先生方は様々なキャラクターを書き分けられていると思います。『人狼』『のうきん』の中で一番楽しく書けたキャラクターは誰でしょうか?
FUNA
レーナですかね。彼女は裏表なく全力で自分の思うがままに行動するので、書いていて楽しいです。それに対し、優等生のマイルは私の考えたまま行動する子じゃないからちょっと難しいかもしれません。もちろんマイルも自分の子供のように思っているので、嫌いというわけじゃないですよ(笑)。
漂月
僕は人馬族のフィルニールですかね。彼女は子供っぽい性格なので、好き放題に動かせるのが魅力だと感じています。フィルニールに関しては僕も基本的に思ったことをそのまま書いているんです。だから、彼女が書いていて一番楽しいですよ。
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