「くっそ……ハメられた」 俺はぶつくさ呟きながら、ゲーム世界をうろうろしていた。 画面上には海賊船長みたいなキャラが表示され、大砲を引きずっている。……いや、引きずってはいるのだが、一歩も動けていない。 『重量オーバーです』『重量オーバーです』『重量オーバーです』 「うるせえな、わかってるよ!」 モニタに叫んでみてもしょうがないんだが、これ完全に詰んだっぽい。 俺が選んだ職業「キャプテン」は、大砲しか使えない。 そこでキャラを育てるために、唯一使用可能な「大砲」を購入した。弾薬もしこたま買い込んだ。 重すぎて動けなくなった。 この「フリーダム・フリーツ」には重量の概念があったのだ。 「おいおい、こういうときは宅配サービスなり、お店で取り置きなりしてくれるだろ……」 無言で俺を見ている武器屋のNPC。 頼みの綱はアイテムの保管もしてくれる「銀行」だが、武器屋から遠すぎる。誰だこんな配置にしやがったのは。 魔術師ならテレポートが使えるし、商人なら銀行が向こうから来るんだが、キャプテンには何もない。「飛空艦」が実装されてりゃ、降下させて積めるのに……。 途方に暮れていたそのとき、フッと重量オーバー表示が消える。 「お、動ける!?」 なんでだろうと思ったら、画面左上に「重量軽減」のバフが表示されていた。誰かが魔法をかけてくれたらしい。誰だ? すると画面端に、そそくさと隠れようとしている魔術師の姿が見えた。 『待って待って』 お、止まったぞ。振り向いた。キャラ名の表示は「襲牙」か。 『ありがとう!』 『いえいえ』 またそそくさと隠れようとしているので、俺は大砲を引きずりながら彼を追いかける。 『ありがとう!』 『それはさっき聞いた!』 キレのいいツッコミだ。こういう人は信用できる。 『この魔法、メチャクチャ便利ですね!』 『重力を軽減する魔法なんですよ。筋力倍加の魔法とどっちにしようかなって思ったんだけど、筋力値が低い職業だと二倍にしても重すぎると思ったので』 説明好きらしい。キャラを走らせながら、よくこれだけキーボード入力できるな。ますます信用できそうだ。 『ところで今から、この大砲でネチョ狩りするつもりなんですけど』 ネチョというのは、このゲームで序盤の経験値稼ぎに使われるモンスターの略称だ。 『ネッチョリーなら西の平原がいいですね。お気をつけてー』 『いや、もうバフ切れそうだから着いてきてほしいんです。ドロップ全部あげますから』 『いりませんよ! てか、そこに銀行ありますよね!?』 『今気づいたんですけど、大砲だけで重量オーバーしてる』 『まじか』 ぴたりと立ち止まる魔術師。それから彼はしばらく固まっていたが、やがてこちらに向き直った。 『筋力が初期値なんですね。筋力上がるまでならパーティ組みますよ?』 『げへへ、ありがとうございます。ええと、シュガーさん?』 『襲牙です、しゅーが』 『わかりました。よろしくお願いします、シュガーさん』 『違うって言いましたよね?』 『でも一発で変換できないので……』 これが俺と「シュガーさん」の出会いだった。